【循環器内科医が解説】心臓に負担をかけない温泉の入り方 5つのポイント
2026年10月24日 00:29
こんにちは、近藤医院です。
秋になってきて温泉が恋しくなる季節ですが、
「心臓病や高血圧の持病があっても、温泉に入って大丈夫でしょうか?」
患者様からこのようなご質問をいただくことがよくあります。
結論から申し上げますと、病状が安定しており、主治医から制限を受けていなければ、正しい知識をもって入浴することで、温泉のリラックス効果や血行促進作用を安全に楽しむことができます。
ただし、入浴方法を誤ると、急激な血圧変動や心臓への過度な負担から、心筋梗塞や脳卒中、致死性不整脈といった重篤なイベントを引き起こすリスクがあります。
今回は、循環器医の立場から、心臓に負担をかけない温泉の入り方について解説します。
1. なぜ温泉で事故が起きる?心臓にかかる「2つの大きな負荷」
入浴時に心臓に負担をかける主な要因は、「ヒートショック(急激な血圧変動)」と「水圧(静水圧)」の2つです。
① ヒートショック(急激な温度変化と血圧変動)
寒い脱衣所で服を脱ぐと、体が熱を逃がさないように血管を収縮させ、血圧が急上昇します。その状態で熱いお湯(42℃以上)に急に入ると、交感神経が激しく刺激されてさらに血圧が上がります。 その後、体が温まるにつれて今度は血管が広がり、血圧が急降下します。この激しい血圧の乱高下が、心筋梗塞や脳卒中、不整脈を誘発する原因となります。
② 水圧による心臓への負荷(静脈還流量の急増)
お湯に肩までどっぷり浸かる(全身浴)と、下半身にかかる水圧によって、体にたまっていた血液が一気に心臓へと押し戻されます。 これにより心臓の容量(前負荷)が急増し、心拡大や肺鬱血(息切れ)、心不全の悪化につながる恐れがあります。
2. 医学的根拠に基づく「おすすめの入り方」5つの法則
心臓への負荷を極力抑え、安全に温まるための正しい入浴手順です。
1. 入浴前後で「各150〜200mL」の水分補給
入浴中は発汗により、気づかないうちに多くの水分が失われます。脱水状態になると血液がドロドロになり(血液濃縮)、冠動脈ステント内血栓症や脳梗塞、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)のリスクが高まります。入浴の前後には、必ずコップ1杯のお水や麦茶を飲みましょう。
2. 「かけ湯」は手足の末端から順番に
いきなり浴槽に入らず、まずは足先や手先など、心臓から遠い部位から順番にお湯をかけます。徐々に体を温水になじませることで、急激な血圧の上昇を防ぐことができます。
3. 「半身浴(みぞおち以下)」で心臓への水圧を減らす
みぞおちから上を湯面から出す「半身浴」にすることで、水圧による心臓への血液の連戻りを半減させることができます。心不全や虚血性心疾患のある方にとって、最も安全な入浴姿勢です。
4. 温度は「38℃〜40℃(ぬるめ)」で10分〜15分
38℃〜40℃の微温浴では、副交感神経が優位になり、血管が穏やかに拡張して血圧が安定します。また、心拍数の急激な増加を抑えられるため、心筋の酸素消費を抑え、胸痛発作などを防ぐことができます。
5. 上がり際は手すりをつかみ「ゆっくり」立ち上がる
湯船から急に立ち上がると、重力と血管拡張の影響で頭部に血液が届かなくなり、「起立性低血圧(脳貧血)」によるめまいや転倒事故につながります。立ち上がるときは手すりや浴槽のフチをしっかり持ち、時間をかけて動きましょう。
3. これだけは避けて!やってはいけない「NGな入り方」
❌ 42℃以上の熱いお湯に入る(交感神経が刺激され血圧急上昇・心拍数増加)
❌ 首まで長時間浸かる・長湯をする(心負荷増大・のぼせ・脱水)
❌ 食後すぐ・飲酒後・薬の服用直後の入浴(食後低血圧や降圧薬との相互作用で意識障害・転倒のリスク)
❌ 冷え切った脱衣所や露天風呂へそのまま移動する(ヒートショックの誘発)
【ワンポイントアドバイス:泉質について】
温泉の泉質の中でも、「二酸化炭素泉(炭酸泉)」は非常におすすめです。皮膚から吸収された炭酸ガスが血管を広げる作用(一酸化窒素の産生)を持つため、37℃〜39℃といったぬるめのお湯でも十分な温熱効果と血流改善が得られ、心臓に非常にやさしい温泉と言えます。
4. 最後に:安全に温泉を楽しむために
温泉は、正しく入れば日頃のストレスを和らげ、自律神経を整える素晴らしいリフレッシュ方法です。
ただし、最近胸の痛みや違和感がある方、息切れが強くなっている方、血圧のコントロールが不安定な方、手術直後の方などは、自己判断での入浴を控え、必ず事前に主治医へご相談ください。
当院では、患者様お一人おひとりの心機能や持病の状況に合わせた日常の生活指導を行っております。気になることがございましたら、診察時にいつでもお気軽にお尋ねください。
